観光と貧困削減 Scheyvens, R (2011) Tourism and Poverty. ブックレビュー ~最新の議論~

これを読むと、現在のPro-poor tourism (プロ・プアー・ツーリズム、以下PPT)の考え方に何が足りないのか、その背景や批判はどういうものか、どこからきたのかがよくわかります。 PPT創始者のひとりGoodwin(2011)すら自嘲ををこめてPPTに足りないものを書いていますが、そんなもんじゃないのでは?というのが、この本を読んだ率直な感想。

まず、PPTはPOVERTYについての議論が足りない。Sustaibable Livelihood Approachだけじゃ不十分ですよ、ということ。PPTはもともとDFIDの援助スキームから出てきたものだから仕方ないのかもしれないが。
つまり、何をもってPOVERTYとするか議論についてはFriedmann(1992)やSen(1992, 1999)の意見も取り入れなくちゃいけない。日本人的には人間の安全保障(緒方さんとSen)の考え方もこの本に入れてほしかったが、それはなし、英国では知名度が低いのかもしれません。

もともとtoiurism and poverty reduction という考え方はdevelopment studyの分野になるけど1970年代IMFの構造調整の失敗からきてるという。それで援助業界が貧困削減にフォーカスしなければならないとなり、世銀やIMF、ILO、UNDP、UNEP、などが言い出し、それに各国の援助機関、DFID、SIDA、DANIDA、SNV、USAIDなどがその流れに続いた。だからもともと、民間から出てきたアイデアではないということですね。すなわちネオリベラリズムの世界からきてるものです。

そのため、Scheyvensの主張は、PPTはネオリベラリズムの考え方を受け入れていて(グローバリゼーションとかフリートレードがいいとか。)それ自体が不平等や格差を助長してるというもの。それを事実に切り込むことなしに観光によって貧困削減を推進することはおかしいと言っている。

現状の世界のエリートの考え方やシステムにチャレンジし、影響を及ぼしてこそ、大きな成果が得られるという主張。

Goodwin (2011)はPPTの問題はちゃんと成果評価がされてない又は公表されてない点、検証されていない点にあるというが、私としてはそれよりも根は深いなという印象です。

恐らく、日本でPPTのことを学ぶ方々は、ひたすらにPPTのアイデアを称賛するような論文や考え方にしか出会わないかもしれないけど、イギリスではPPTのアイデアは援助機関などにまだ受け入れられてはいるものの、学術的には批判の対象です。がんばってほしいですね、PPT!

でも、SNVもtourismから撤退する予定とのこですし、アメリカはUNESCOへの負担金とめる様子ですし、Scheyvens (2011)の議論を支持するなら、大国の理論に打ち勝たない限り、PPTというかtourism and poverty reduction、観光による貧困削減 が世界的に大きな効果をもたらすのはとても難しそうです。

とはいえ、英国やヨーロッパの旅行業界ではCSRはかなり発展してて、大きな旅行会社、例えば世界一のTUI(航空機300機に3000社くらいの旅行代理店もっていて、毎年1億人くらいの客がいる会社)も単に環境への配慮から、観光の社会的・経済的、影響を軽減するための施策を打ち出して、3年くらい前から実践しています。そういう流れを今後広められるかどうかがカギとなるのでしょう。きっと。実はそのTUIのCSR部マネージャーは僕の言ってる学部の卒業生らしいのですが。。。

Goodwinが毎年11月にロンドンのWorld Travel MarketでやってるResponsible Toiurism デーのような大規模イベントが今後広がりをみせれば、可能性は高くなりますね。

願わくば私も日本でその潮流を作りだす一部となりたいものです。

hirokudo

 

参考文献

 

Friedmann, J. (1992) Empowerment: the politics of alternative development: Blackwell, Cambridge.

Goodwin, H. (2011) Taking Responsibility for Tourism, Goodfellow.

Sen, A. (1992) Inequality Reexamined, Oxford, Oxford University Press. 

Sen, A. (1999) Development as Freedom, Oxford, Oxford University Press.

Scheyvens, R. (2011) Tourism and Poverty. Routledge.

観光と貧困削減 Scheyvens, R (2011) Tourism and Poverty. ブックレビュー ~最新の議論~」への1件のフィードバック

  1. なかなか日本では観光と貧困削減に関する書籍や議論が少ないので、大変参考になりました。

    また最新の議論など教えていただければ有難いです。

    どうもありがとうございました。

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